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巨人の星 第11話 「青雲のせまき門」



■ 庶民の食卓

青雲高校の入学試験を終えて帰ってきた飛雄馬。
青雲の野球部でひと悶着あったため、帰宅したのはもう夕食時です。

ファンの間で語り草になっている、ちょっとした珍場面がここで拝めます。

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「ただいま ご機嫌いかがダディ」

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「ダ・・・ダディだと・・!?」

昼間の面接試験にて、上流家庭では父親をダディと呼ぶと教えられた飛雄馬はそれを真似してみたのです。
ただその情報源は、一代で財を成した伴自動車工業の叩き上げ社長である伴大造ですから、成金のいうことを真に受けるとこういう滑稽なことになるのかもしれません。

飛雄馬は、金持ちを鼻にかける横柄なブルジョワたちが通う青雲高校には、どうしても行く気になれず文句をいいますが、父は全て心得ているといった様子で飛雄馬の怒りをのらりくらりとかわします。

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「明子 食事にするか」

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「なんだ また納豆と味噌汁か」

吐き捨てるようにいう飛雄馬。
このときの古谷徹さんの演技が真に迫っています。
現在なら納豆業界と味噌業界からクレームがつきそうな、本当に嫌けがさすような言い方。
たしかに納豆と味噌汁だけでは夕食としては寂しいかもしれません。

飛雄馬の家庭は決して裕福ではありませんが、
一徹がまじめに働いているので、刺身などが食卓に上ることもあります。
しかしこの時期星家は、青雲高校へ入学する資金を貯めなければならず、
家計にもかなりの負担がかかっているのでしょう。

ですが一徹は飛雄馬の体つくりにも気を配っているはず。
この夕食には大豆製品が目立ちますが、なるほど、安価で高たんぱくな納豆は畑の肉などといいます。
納豆の登板の合間に、適度に動物性タンパクを織り交ぜていれば、
それらが飛雄馬の血となり肉となり、強靭な体を生み出すのになんら問題はなさそうです。

■ 恐怖のスタミナ料理

漫画やアニメでは、食事がキャラクターの内面を表現するのに使われることが非常に多いですが。
今回初登場となる怪童、伴宙太のキャラクターを表現する小道具にも食事が使われています。

伴は野球部においてはただの応援団長という立場なのですが、もちまえのあつかましさと父親の権力をふりかざして、野球部員たちを自分の子分のようにしごいています。

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今日も野球部全員を引き連れての大名行列のような帰宅ですが、
家の前で「飯でも食っていけ!」と突然部員たちを食事に招待します。
伴の豪邸では、恐怖のディナーが彼らを待ちかまえていました。


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豪邸の食堂に座らされ居心地の悪そうな部員たちの前にでてきたのは、名づけて伴宙太式スタミナ料理。
まずはスープからです。

匂い立つような湯気を立てて注がれる謎の汁。
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給仕をしている家政婦さんも汗だくです。
彼女らがつけているマスクは、衛生面のことを考えてというより、
臭気を避けるための毒ガスマスクのようなものかもしれません。
部員たちは鼻や口を押さえて、食べる前から死にそうな顔。

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この汁の正体は「ニンニクとマムシの粉の特製スープ」 でした。
怯える部員たちをよそに、ひとり舌なめずりする伴。
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さじをつけようとしない部員たちに、伴の怒濤の「食え」攻撃が襲いかかります。

「さあ遠慮しないで食え」
「運動選手はスタミナが第一だ さあ食え!」
「うーん美味い 食え!」

最後のは、美味いから食えへの華麗な連携コンボです。

▼ これが『美味い→食えコンボ』だ!
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うーん美味い
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食え!
笑顔で「美味い」を言い終わってから
「食え」の怒声が出るまでが約0.7秒。
(ストップウォッチで計測しました)

気分屋の豪傑ならではの
息つく暇もない必殺コンボです。
この恫喝を食らった者は考える余裕も与えられず、
出された料理を釣られて食ってしまうことでしょう。


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伴宙太の脅迫に近い振る舞いにビビってついにスタミナ料理を食し始める部員たち。
いったいどんな味なのでしょうか。
吐きそうになるのをこらえる部員の姿を見れば、このスープがどんな味なのかだいたいわかります。



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伴の指示で運ばれてきた次なる料理は・・・
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「蜂の子だ 生きたやつにしょう油をちょいとつけて食うと…」

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くちゃくちゃくちゃ・・・伴が蜂の幼虫を噛み潰す音が室内に響き渡ります。

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「元気が出る!」

豪快を絵に描いたような男伴宙太は、胃袋も屈強です。
そのことは、のちの青雲高校野球部集団下痢事件のときに、
飛雄馬と伴のふたりだけピンピンしていたことからもわかりますが、
今回の食事シーンや、第43話にでてくる闇鍋などの悪食の描写からもそれは伺えます。


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◇ 「昆虫食」と「ゲテモノ食い」

このシーンでの蜂の子の描写には、明らかに「ゲテモノ食い」の意図があります。
それは、昆虫の幼虫を食うという行為が現代の日本では珍しいからであり、
私自身も昆虫は食べたことがないので、いざ食べるとなるとかなり抵抗があります。
そういった意味では、大多数の日本人にとって、昆虫食=ゲテモノという分類がされることや、
今回のように演出の小道具としてゲテモノの描写をされることは間違ってはいませんが、
世界的に見ると、「昆虫食」はそれほどめずらしい食文化でもありません。

わが国でも、イナゴは江戸時代から食料とされてきましたし、
長野県をはじめとして様々な昆虫を食べる食文化が根付いている地域があることを考えると、
ゲテモノ描写を鵜呑みにしてはいけないかなと思います。
日本でも戦後の食糧難の時期には、長野県に限らず全国的にイナゴやカイコのサナギなどが佃煮や甘露煮などに加工され食糧として流通していました。
昆虫には普段摂れない栄養がたくさんあるうえに、繁殖力や捕獲のしやすさを考えると、
食糧難のときには、昆虫こそが飢餓を救う食糧になることでしょう。



■ 少年時代の終わりと合格祝い

高校の入学祝の夕食。
花形から飛雄馬の合格をきいた明子が、合格祝いの料理を用意してくれています。

その夕食を前に、ギブスを外せという父一徹。
この大リーグボール養成ギブスは、小学生の頃から寝るときも食事をするときもつけていた、
すでに飛雄馬の体の一部といっていいものですが、
青年期を目前にして必要な肉体が完成された飛雄馬には、それももう用済みとなったのです。


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丁寧にギブスを外していく飛雄馬。
その脳裏には、走馬灯のように苦節の日々が蘇ります。

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飛雄馬の剛速球は、ギブスのバネと憎しみのバネとで作られたという父に飛雄馬はいいます。
「父ちゃんありがとう」

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    鬼の目にも涙

しかし一徹と飛雄馬の目標はもっとはるか先にあります。
このくらいで感慨にふけっている暇は、この親子にはありません。
長い道程の節目の日を今日はただ祝うのです。

「腹がすいたろう… 明子!」

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「さあ 今日はあたしが腕をふるったごちそうよ」

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今日というめでたい日に明子が丹精込めて作った夕食のメニューは、
尾頭付きの鯛にエビフライのようです。


夕食後、いつものように日課の投球練習がはじまります。
しかし今夜はギプスがありません。

「さあ飛雄馬 放ってみろ 高校生としての第一球を」

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轟音とともにミットに飛び込む、成長した息子の剛速球。
鉄面皮の下で飛雄馬に無言の檄を送る一徹の心をいま満たしているのは、
やはり、ひとりの親としての感慨なのではないでしょうか。

ギプスが外れたことで、少年時代の基礎鍛錬の時代がようやく終わり、
プロ野球へと続く本番の戦いがいま始まったのです。

今夜の食事は、高校入学の祝いの意味もありましたが、
飛雄馬の野球人生の節目と新たなスタートを祝っている意味が大きかったと思います。




...おまけを読む (作品の感想と解説)
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巨人の星 第10話 「日本一の日雇人夫」



■青雲高校への道のり

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星一徹の仕事は工事現場の人足です。
彼は野球で鍛えぬいた体ひとつで一家を支えています。

一日の労働を終えて帰宅する一徹。
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家では飛雄馬が進路志望の用紙とにらめっこしていました。
それをみると一徹は、用紙をとりあげて勝手に高校名を書いてしまいます。

それを終えると、一徹はおもむろにおひつを開けて弁当を作り始めます。
どうやら弁当の内容はご飯のみ。
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「夜の仕事は給料がいいからな 稼げるうちに稼いでおかなけりゃ」

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休む間もなく、手弁当で夜の仕事に出かける一徹。

弁当なら長女の明子に作らせればいいところを、このような間に合わせの弁当で出かけるということは、
割のいい仕事が急に入ったのでしょうか。
明子ならば働きすぎの父の体を心配して止めようとするでしょうから、
そのようなわずらわしいやり取りを避けるためにこうしたのかもしれません。

いずれにしろ、この短いシーンとがさつな弁当からは
一徹の男らしさが伝わってきます。


このときの進路志望用紙に一徹が書いた高校名はなんと「青雲高校」。
学力も高く、なによりも青雲は金持ちが通うブルジョワ校です。
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第二希望も書かず、
飛雄馬が進むのは名門青雲高校しかないと断じる一徹の思惑はどこにあるのか。
「いずれわかる」としかいわない一徹に、飛雄馬は反発しますが、
それに対する一徹の回答は、腹巻から取り出した預金通帳だけです。

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飛雄馬名義の郵便貯金通帳。
決して安くない金額の入学金、それと初年度の授業料。
それくらいは払えるだろう額の貯金を見せられ、飛雄馬も父の愛情と覚悟を知ります。

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家計を支えるふたりに感謝する飛雄馬


飛雄馬がこれからひたすら受験勉強をして目指すのは、
名門であり、そしてまともな野球部すらない青雲高校。
彼の剛速球をただひとり受け止められるだろう男がそこで待っています。



...おまけを読む (作品の感想と解説)

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